陸上競技のひとつである競歩は、短距離走やマラソンなどと比べると認知度が低い競技といえるでしょう。
しかし競歩はその独特のルールやかけ引きの奥深さ、過酷さなどにおいて、他に類を見ない競技でもあります。
意外と知られていない競歩のルールやレースで歩く距離、魅力などをわかりやすく解説します。
競歩とは
競歩は決められた距離を歩き、ゴールまでの速さを競う陸上競技の種目の一つです。
3,000mから50,000mまでの距離は、競技場のトラックを周回するトラック種目、10km、20km、50kmの距離は道路上を歩くロード種目として行われます。
主要な国際大会では男子の50kmが最も長い距離ですが、欧米ではより長い100kmのレースも行われています。
テレビなどの画面ではわかりづらいのですが、レースで一流選手が歩く速度はセミプロランナーが走る速度と変わらないほど速く、安定しています。
2019年時点での男子50kmの世界記録は3時間32分33秒ですが、これは1kmあたり約4分15秒というハイペースです。
過酷さは陸上競技の中でもトップクラス
競歩では後述するフォームチェックが厳しいためにペースダウンして休むということが難しく、長距離のロード種目では脱水などの危険も高まります。
特に距離の長い50km競歩は、陸上競技の中でもっとも過酷であるといっても決して過言ではありません。
酷暑の環境では体調不良に陥った選手が側道に出て嘔吐するなどの光景もめずらしくなく、完歩できずに途中棄権する選手も続出します。
そんな過酷な競技ですが日本は競歩王国とも呼ばれるほど競歩のレベルが高く、これまでに数々の国際大会で優秀な成績を収めています。
この躍進は2003年にパリで開催された世界選手権で日本人選手が多数失格になったことを受け、厳しい審査基準への対応を行ったことが大きく影響しているといわれています。
競歩のルールについて
競歩のもっとも大きな特徴は、歩行のフォームに関する厳格なルールが定められている点です。
代表的な反則は次の2点です。
- ロス・オブ・コンタクト
- ベント・ニー
歩行中は常にどちらかの足が地面に接していなければならず、両方の足が地面から離れると【ロス・オブ・コンタクト(地面との接触を失ったという意味)】になります。
また前に出した足が接地した瞬間から地面と垂直になるまでの間は膝を伸ばしていなくてはならず、曲がると【ベント・ニー(膝が曲がったという意味)】となり反則になります。
この2点が守られているかを確認するために、レース中は競歩審判員が選手のフォームを随時細かくチェックしています。
反則があった場合には審判員がそれぞれに応じたイエローパドルを、反則の度合いが過ぎる場合にはレッドカードを提示します。
レッドカードは3枚で失格となりますが、レースによってはペナルティゾーンで一定時間待機させる場合があり、その場合は4枚目のレッドカードで失格となります。
ルールとの駆け引き
競歩審判員はレース中すべての選手を常にチェックできるわけではないため、チェックの目が届かない範囲内で反則歩行を行うことも駆け引きのひとつとする側面もあります。
意図的に反則歩行を行うことはもちろん褒められたものではありませんが、一流選手は反則を取られないギリギリのラインで速度を最大限に発揮するフォームで戦っているわけです。
また終盤でレッドカードの累積枚数に余裕のある選手がルールを無視したスパートに出るのを防ぐために、ラスト100mの範囲で反則を犯した場合はレッドカードの累積枚数に関わらず一発失格となるルールが設けられています。
失格はゴール後に告げられる場合もあるため、繰り上げ入賞が頻繁に起こるのも競歩の特徴のひとつです。
主要な国際大会
競歩が採用されている主な国際大会には次のようなものがあります。
- オリンピック
- 世界陸上競技選手権大会
- IAAF世界競歩チーム選手権大会
- IAAFワールドチャレンジ競歩
オリンピックでは男子が20kmと50km、女子は20kmが正式種目として採用されています。
2年に1回、奇数年の8月から9月にかけて開催される世界陸上では、オリンピックの正式種目に加えて女子の10kmと50km、IAAF世界競歩チーム選手権大会では20歳以下の男女を対象にしたU20の10km種目も行われています。
採用種目はこれまで同様今後も変わることがあり、2019年2月には国際陸上競技連盟が主な国際大会で実施する種目を50kmと20kmから30kmと10kmに変更する案が発表されています。
競歩のルールと見どころのまとめ
陸上競技のひとつである競歩は、トラックやロードを歩いて速さを競う種目です。
トップ選手が歩く速度はフルマラソンで3時間を切るレベルのセミプロランナーとほぼ同じという驚異的なスピードです。
歩行のフォームについては両足が地面から離れるロス・オブ・コンタクトと、前足が設置してから地面と垂直になるまでに膝が曲がるベント・ニーの2つが反則として厳しくチェックされます。
現在オリンピックや世界選手権で採用されている主な種目は50kmと20kmですが、種目は今後変更になる可能性があります。